パンはおいしい。
昨今グルテンフリーだとか小麦絶つ生活などが流行っていると耳にするが、わたしには関係ない。
小麦だいすき。ガマンなんかしない。
ふと自分はいつ頃からパンが好きになったのだろうと考えると、おそらく母の影響が大きかったのだと思う。
わたしが物心ついた頃から、母の朝ごはんは決まって食パンだった。
幼い子供たちの朝ごはんは日によっておにぎりだったり昨晩と同じメニューの残りだったりするものの、母の朝ごはんはいつも食パン。しかもバターをたっぷりと塗ったやつ。
パンのほうが安いから?節約のため?と一瞬思ったものの、おそらくご飯食よりパンandバターのほうが割高だ。しかも高カロリー。
もう少し大人になると、単純に母が大のパン好きだっただけということがわかる。
転勤族だった我が家は色々な土地に住んだけど、だいたいその土地の有名パン屋さんは制覇していた気がする。
母に連れて行ってもらうパン屋は、どこもかしこもいつも人が溢れていたように感じる。
トレーとトングを持ち、たくさんのパンの中から自分の好きなパンを選ぶ楽しさは、今も変わらない。
わたしにもパン好きの遺伝子はしっかりと受け継がれていたらしい。
カリッとした耳までおいしい角食パンは、バターをたっぷり塗ればさらに美味。
さっくりホロホロとした生地が楽しいクロワッサンは、そのまま食べても味わい深い。
ウィンナーロールは先に周りのパンを食べてから、最後にウィンナーを楽しむのがポイント。
たまに出会う、動物のかたちをした生地の中にクリームの入ったおやつパンは、クリームが少ない耳部分から食べることにしていた。
その他数限りないパンたちに出会ってきたなぁと、なぜか突然パンの思い出が一気によみがえってきたのは、このどでかい硬いパンが目の前にあるからだ。
この土地には、あの愛してやまないふわっふわのパンたちが無い。
ハンガリーのパン屋さん【pékség】
もちろんハンガリーにもパン屋はある。
ショーケースに入ったパンたちを見ながらお店の人に注文するスタイルが一般的。
日本みたいに自分たちでトレーとトングを持って、好きなパンを取っていくシステムは見たことがない。
ただスーパーの中に設置されているパンコーナーは別で、そこでは自らトングでパンをピックアップするシステムだ。
ハンガリーのパンにもおいしいと思うものはあるけれど、何かが違う。なんだろう。
まず、強力粉、中力粉、薄力粉といった粉の違い、水の違いが大きいのかもしれない。
日本の水は軟水だが、ハンガリーの水は硬水。
水の違いは思っている以上に影響が大きい。
軟水で炊いた白米と硬水で炊いた白米とでは雲泥の差があると思っている。(軟水のほうがご飯はふっくらツヤが出る)
粉や水による生地の違いもさることながら、もうひとつの大きな違いはバリエーションの少なさだ。
日本のパン屋さんでは、目移りするくらいたくさんの色鮮やかなトッピングをされたパンたちが並んでいるけれど、ここではだいたいのパン屋でほぼ同じようなレパートリー。
- シナモンロール
- カカオロール
- カッテージチーズパン
- チェダーチーズパン
- ピザ
- ドーナツ
- ジャムパン
- バゲット
- ロールパンサイズの硬めのパン
- クロワッサンのような「かたち」をした三日月型の硬めのパン
などなど。
これらに加えて、どでかいパンが置いてある。どれも等しく硬め。
それが一般的なハンガリーパン屋の基本メニューだ。
あの白いふわふわの生地は今でも出会えていない。
1kg:240円のドでかパン
もちろんふわふわのパンが無いなら無いなりに、ハンガリーのパンも割と楽しんでいる。
いつも買うのはどでかパン。ブラウンが過ぎるのは少々酸っぱめなので、わたしは少し白っぽいパンが好きです。
「茶色のほうが身体にいいよ!」といった声も聞こえてきそうだが無視無視。
1kgだいたい210円〜290円くらいの大きなパンを丸々買って、スライスして食べる。
日本の食パンのように甘味は少ないが、もっとギュッと詰まった感じで噛みごたえがあるので、スープのお供にするのがおすすめ。
パプリカパウダーをふんだんに使ったスープと一緒に1-2枚食べると、それだけでかなりお腹が膨れる。
ただ、人によってはこの噛みごたえに慣れるまで苦労するかもしれない。
誰かが「スポンジみたい・・・」と言っているのを聞いたことがあるが、わからなくもない。
それでも、慣れるとたまに食べたくなる味だったりする。人間の舌って不思議。
味はさておき、このパンはなんといっても価格は安くて量が多いので、エンゲル係数をかなり下げてくれる家系の心強い味方。
スープに添えてそのまま食べるもよし、野菜を乗せてマヨネーズをかけるもよし、ハムとチーズを乗せてガブっといくもよし。
このどでかパンは、ハンガリー生活において結構優秀な存在だと思っている。
ちなみにジャムやハチミツなど、甘いものとのマッチはイマイチであることもお伝えしておきたい。
無いのなら、作ってみせようふわふわパン
日本にいるときはすぐに手が届いたふわふわパンを、ここで食べようと思ったら作るしかない。
幸い時間はたっぷりとある暮らしなので、このタイミングでパン作りにも調整してみることにした。
参考にしたのはコチラのYoutube。
参考資料が良かったからか、元々自分にパン作りの素質があったかはわからないが、初めてにしてはかなり良い出来だった。
もちろん少し手間はかかるし時間も必要。それでもヨーロッパはハンガリーの田舎町でもふわふわのパンは作れる。
近くのスーパーでゲットできる材料で作れることがわかり、この日からわたしのパン作りの日々がスタートした。
ミルクブレッドに始まりバターフレーキー、シュガーパンに塩パン。
外は香ばしく中はふわふわのあの懐かしいパンたちが、なんとハンガリーで食べられる!
これはここ一番の収穫かもしれない。
と同時に、店頭に並ぶあれだけ多くのパンたちを毎日生み出しているパン屋さんに対して、改めて尊敬の念を示したい。
パン屋さんってすごいよ。
あんなにおいしいパンたちが、1個百数十円〜数百円で買えるように頑張っているお店に、ハンガリーからエールを込めて。
ちなみによくパン作りをしているというと言われるのが「丁寧な暮らしをしてるんだね」という言葉。
ていねい、なのだろうか。
個人的にはどちらかというと、丁寧な暮らしというよりも不便な暮らしと思っている。
無いと不満を言っても欲しいものが手に入るわけじゃないし、欲しいなら工夫して作り出さなければいけない。なんて不便なんだ。
この環境が丁寧な暮らしというものなら、昔の人たちはみんな丁寧な暮らしをしていたに違いない。
パン屋さんが倒産していると聞いて【パン屋のない世界】
チラッと見た日本のニュースに、今多くのパン屋さんが倒産しているという記事を見つけた。
やはり一個個百数十円〜数百円であのおいしいパンたちを毎日生み出すには、少々無理が必要なのだろうか。
お店によっても事情はさまざまだと思うけど、どんな事情であれ、パン屋さんの倒産という記事は、わたしの気持ちをどんよりさせることとなった。
小さい頃、そして大人になった今でもパン屋さんに足を踏み込んだあの小麦の甘い香りと、目を惹くさまざまな形をしたパンたち。それがどんどん無くなっていると思うと、胸の奥がチリっとする。
コンビニやスーパーでもおいしいパンは買えるだろうけど、わたしはいくつになっても、あのパン屋さんたちが好きなんだ。
トレーとトングを持って、今日はどれを食べようかとワクワクするあの瞬間が、この世界からどんどん少なくなっているなんて。
無責任なことはいえないが、もし個人的なわがままを言えるなら、少しでも多くのパン屋さんが生き残ってほしい。
少しでも長くたくさんの人が、あの瞬間を楽しみにしているはずだから。
今も日本のあちこちでがんばっているパン屋さんを想いながら、わたしは今日も1kg240円のドデカパンを口に運ぶとしよう。
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